委員会活動方針(2019年度)[参考]

I 基本方針


①学問研究の自由と独立を擁護する歴史学研究会創立以来の活動を受けとめ、歴史学分野の自由な雰囲気をさらに広める。この点で、戦後歴史学が全体として果たしてきた社会的な役割を踏まえ、その経験と蓄積を引き継ぐ。
②日本の侵略と植民地支配に対する国民の歴史認識を歪めようとする動きに反対する。象徴天皇制やそのあり方の問いなおしを利用した、社会の権威主義的統合および国家主義的傾向を容認しない。
③歴史的な経験と文化を尊重する意識の発展に努める。特に歴史的景観と文化財の保存、史資料の発掘・調査・保存については、必要な行動をとる。
④歴史の研究と教育(社会教育を含む)の自立・協働の問題について議論を深める。家永教科書訴訟の提起した課題を受けとめ、教科書検定・採択への政治介入に反対し、教科書制度の改革を求める立場から歴史教育と歴史教科書問題に取り組む。
⑤歴史学の国際交流に積極的に参加して、研究者・教育者との意見交換に努める。特に日本学術会議などの団体と連携しながら、国際シンポジウムなどを開催する可能性を追求していく。
⑥既存の日本史学・東洋史学・西洋史学の枠を超えて、研究者間の世界史認識をめぐる議論を促進し、歴史学の方法論の深化に取り組む。
⑦内外の多くの人びとや、諸学会・諸団体との交流を一層深め、協力の輪を広げる。あわせて日本の学術体制の自主的・民主的発展を目指す。
⑧大会の全体会・特設部会・各部会の充実と、総合部会例会、各時代別・地域別部会の活動の活性化に力を注ぐ。
⑨本会の活動全般において、ジェンダー平等を追求し、男女共同参画の実現に努める。
⑩幅広い分野の研究者、特に若手研究者の本会活動への参加を促すとともに、歴史学の担い手を育て、支える取り組みに力を尽くす。
⑪会員はもとより、非会員にとっても魅力的な会運営を行うことによって、会員の増加を目指し、より安定した組織・財政の基盤をつくる。
⑫歴史学の社会的役割に関する議論を深め、例会・シンポジウム・出版のみならず、ウェブサイトやSNSなどを活用して、社会に対する発信に力を注ぐ。また、市民とともに歴史を学び、考え、活かす取り組みを積極的に行っていく。
⑬研究テーマの多様化に敏感かつ適切に対応できる編集体制を整える。そのため、本誌の各ジャンルを最大限に活用し、本誌を歴史学関係情報の交換の場とする。

II 研究活動

(1)研究体制の整備
①研究活動の企画は、従来通り委員会で立案・検討・決定する。また各部会と緊密に連絡をとるよう努める。
②委員会に研究部を設ける。そのなかに研究部長、研究副部長、および全体会、総合部会、部会連絡会の各担当を置く。
③研究部長は研究部を代表し、研究活動の運営に責任をもつ。
④研究副部長は研究部長を補佐し、必要に応じて研究部長の代理を務める。
⑤全体会担当は、主に全体会の準備・運営を担う。
⑥総合部会担当は、主に総合部会の準備・運営を担う。
⑦部会連絡会担当は、会務部の部会連絡会担当と連携して、部会連絡会と研究部の意思疎通を図る。
⑧委員会において特設部会の設置が決定された場合には、その準備・運営にあたる担当者を委員会で決めて、研究部も含めた全委員会レベルでこれを支援する。
(2)全体会
①全体会の企画・運営にあたっては、現代社会の情勢との関連を重視し、多くの会員の問題関心に応えるように努力する。
②研究部は、全体会企画について委員会での議論を踏まえながら検討する。
③全体会のテーマは、部会のテーマや企画と関連するように努める。
(3)総合部会
委員会主催の総合部会を企画する。企画にあたっては、各委員の問題関心を相互に発展させ、委員会と時代別・地域別部会との交流、部会間の相互交流に努める。また友好団体との交流や国際交流にも留意する。
(4)特設部会
歴史学固有の新しい課題や歴史教育・史資料保存問題、歴史学と社会との関わりなど、学術体制・科学運動に関わる多様な問題について大会の場で集中的に議論するため、委員会における議論と判断に基づき、必要に応じて単年度の特設部会を設置する。

III 会務活動

(1) 組織体制
①委員会の課題に即した委員構成をとり、組織・財政・国際交流をさらに強化する。委員はそれぞれの活動に責任をもつと同時に、緊急の課題などには委員会の責任で柔軟な対応をとる。
②委員長は歴史学研究会を代表し、会活動全般の最終的責任を負う。
③委員会に会務部をおき、事務局長・会務幹事および組織財政・月報・若手研究者問題・男女共同参画の各担当を設ける。また必要に応じて、会務副幹事、国際交流の各担当を設ける。
④事務局長は会務部を代表し、会務活動の責任を負う。
⑤会務幹事は会務を運営し、事務局長とともに事務局を統括する。会務副幹事はこれを補佐する。
⑥組織財政担当は、会計業務の統括と月末・中間期・年度末決算、および予算編成を行う。
⑦若手研究者問題担当は、若手研究者全般の研究・教育・生活環境に関する最新の情報を収集し、会務部に報告する。会務部はこれを受け、本会としての対策を立案する。
⑧男女共同参画担当は、「人文社会科学系学協会における男女共同参画推進連絡会」と連携しながら、ジェンダー平等の観点から、本会の会務・編集・研究活動における男女共同参画の現状をチェックし、会務部に報告する。会務部はこれを受け、本会としての対策を講ずる。
(2) 取り組み
①今後も本会の財政・事務の安定化と経費節減に努める。本会の将来的なあり方を随時検討する。
②会費請求事務を確実に進め、会費未納者や会費未納による資格停止者の一層の減少に努める。また、魅力的な会運営を行うことによって、会員増加に努める。
③市民に開かれた催しを適宜企画して、本誌や部会以外での研究活動にも積極的に取り組む。
④基本業務の合理化と基本資料の整備、会計監査基準の拡充などによって、会務・財政の長期的な安定をはかる。また雑誌・書籍などの整備に努め、体系的な保存体制を確立する。
⑤月報編集を重視し、誌面の充実をはかる。委員会活動の報告と会員からの意見などを恒常的に掲載するよう努める。また部会活動報告・受贈図書一覧を迅速に掲載する。月報編集の最終的な責任は事務局長・会務幹事・会務副幹事が負う。
⑥各時代別・地域別部会との情報交換、各部会相互の交流を進めるために、適宜、部会連絡会を開催する。部会連絡会では、全体会企画と各部会のテーマとの調整、大会における部会の編成、各部会の活動状況や問題点の把握、今後の部会活動の充実にむけての意見交換を行う。
⑦インターネット(メール配信・ウェブサイトなど)による情報発信を通じて、会員に対する情報提供サービスおよび社会に対する情報発信力の一層の強化向上をはかる。SNSのさらなる活用を検討する。
⑧事務局員の雇用体制の安定化をはかり、事務所の環境改善に努力する。事務局の勤務体制について、事務局長は適宜、局員との間で意見を交換し、勤務環境の向上に努める。
⑨本誌掲載の英文要旨、外国語による出版物やウェブサイト・電子ジャーナルなどを通じて、会の活動を広く海外に発信する。
⑩諸活動の充実・発展のため、会員からの支援・協力を引き続き求める。

IV 編集

1 会誌編集
①活動報告を踏まえ、新たな研究領域の開拓にも資するような、開かれた編集作業をめざす。隣接分野の新しい研究潮流と積極的に対話し、歴史認識と歴史学の方法を深め、歴史教育の現状を踏まえつつ、歴史学に対する社会的要請に応えられるような企画を立てる。そのため、会務部や研究部、各部会との連携を重視する。
②二〇一九年度は、投稿原稿の一層の増加を図るため、委員会や各部会など様々な機会を捉えて会員への投稿の呼びかけを続ける。また、紙幅の許す限り、本誌最終ページに投稿をよびかける文章を掲載する。厳正かつ迅速な審査を徹底し、引き続き審査者選定や審査手順の改善に努めるとともに、「掲載」に至らない投稿原稿についても、素材やテーマについて研究史上の意義を認められるものについては、丁寧な審査所見を送り、再投稿を促して質の高い投稿原稿の確保を図る。さらに、時代・地域・テーマについてバランスのとれた論文・研究ノートが掲載できるよう創意工夫に努める。
③特集・小特集・シリーズなどは、活動報告でふれた企画方針に基づいて作業を進める。二〇一九年度の特集としては、「文書管理の歴史学」(六・七月号)、「資源としての「水」の歴史」(仮題)(一一・一二月号)が予定されている。小特集としては、まず「日本の中近世移行期の貨幣」(仮題)(一〇月号)が予定されており、これに加えて、総合部会など本会の活動を反映した企画を検討することにしている。さらに、二〇一六年度に開始したシリーズ「歴史家とアーキビストの対話」の第六回を掲載する。
④書評については、委員の努力によって出版動向に関する情報を積極的かつ迅速に集め、重要な書物をバランスよく取り上げる努力を続ける。展示評についても、内外の展示情報を積極的に収集して執筆を依頼する。また、歴史をテーマとする映画・ドキュメンタリーなどの映像作品についても積極的に取り上げ、歴史学の視点に立つ評論の掲載をめざす。これらは書評に並ぶ、重要なジャンルとして育てていく。史料・文献紹介については、より多くの史料・文献を速やかに取り上げられるよう、未着の依頼原稿の督促を含め、原稿の確保に努める。
⑤「批判と反省」以下のジャンルについては、適切な執筆者に時宜を得た依頼を行い、会誌が活発な討論の場になるよう努める。歴史学の最前線の研究状況を紹介するため、若手・中堅研究者を中心に、新しい研究分野や方法論、理論的考察などに関する「研究動向」を積極的に依頼する。また、科学運動・研究活動との連携を図りつつ、現代世界の状況を歴史学の視点から読み解くジャンルとして、「時評」の充実に努める。多角的な視点を提示するためにも、一つのテーマをめぐって複数の著者が異なる視点から執筆する試みを、今後とも続けていく。さらに、次期高等学校学習指導要領における地理歴史科および公民科の改編と関連して、歴史教育の動向に注視し、このテーマをめぐる「批判と反省」や「時評」を企画する。これらの論考の掲載を通じて、本会が歴史研究・歴史教育の発展のために行う社会的活動を広く会員・読者に伝える。
⑥会誌とウェブサイトとの連携、英文目次・要旨の質の維持など、引き続き情報化・国際化への対応に努める。
2 組織運営
編集委員会は会誌の編集・発行に関する最高意思決定機関である。編集委員会は定例の委員会の場で全員が参加して開かれる。そこでは編集上の企画・立案を十分に討議し、全委員が会誌作りに自覚と責任をもって参加する。編集権は編集委員会に属し、編集部や編集担当委員個人にはないことを確認する。編集部には編集幹事、編集副幹事、企画出版担当、書評担当、展示評担当などの各委員を置き、その運営は編集長が責任を負う。編集長、編集幹事、編集副幹事、編集担当委員、事務局員などで構成する編集部会議を随時開き、編集上の問題については意見交換を行う。特に、情報化に対応して審査者選定や審査手順の問題点を洗い出し、必要な改善策を検討する。特集の企画では、テーマに対する意見を編集部以外の委員などからも募り、必要に応じて編集部以外の委員などを含めたワーキンググループを編成する。編集の提案は編集委員会で行い、委員会で出された意見を編集部でさらに吟味し、具体化の方策を建てる。
 二〇一八年度の編集体制を再検討したうえで、これまでに蓄積された編集上のノウハウを継承し、編集委員会と事務局、発行元および印刷所との連絡・連携態勢を強化することで、今後の編集活動の円滑な継続をめざす。
3 企画出版
(1) 方針と体制
①充実した企画出版を積極的に進めるため、編集部に企画出版の担当者を置く。テーマに応じて会務部・研究部などとの連携を図り、担当者は新企画案のとりまとめや進行中の各企画責任者と連絡調整し、定期的な報告を行ったうえで企画の順調な進行をめざす。
②企画ごとに編集のための委員会を置くことを基本とし、適宜編集部の企画担当と事務局長、研究部長がそれに加わることで、企画実現の効率化を図り、企画全体に体系性を持たせる。
③企画ごとの編集のための委員会は、会員を中心に、第一線の研究者・教育者や他学会の協力も得て、企画構成の検討、編集の実務を行う。本会の財政の安定のためにも、堅実な企画出版をめざす。
(2) 企画出版計画
①『歴史学研究増刊号・歴史学研究会大会報告』を出版する。
②第九次高等学校学習指導要領により科目「歴史総合」が新設されることに鑑み、歴史学の最新の成果と高等学校における歴史教育とを架橋する内容の書籍を企画する。
③特集・小特集、本誌や月報のシリーズ、総合部会例会、歴研主催のシンポジウムなどを踏まえた企画出版に向け、引き続き努力する。
4 本誌の電子化への取り組み
インターネット上での学術論文の公開が進んでいる現在、『歴史学研究』のバックナンバーのデジタル版の提供が課題となっている。当面、米国に本拠を置くEBSCO社との間で二〇一〇年に結ばれた契約に基づき、バックナンバーの有償提供の実現に努める。本誌原稿のデジタル化については、学術論文のオープンアクセス化の動向を注視つつ、中長期的な展望のもとに、引き続き編集長を中心に組織された小委員会で検討を続ける。なお、本誌掲載原稿の著作権については、執筆者の譲渡許諾を求める代わりに本会に帰属するものとする方向で、本会の著作権ポリシーの改正を引き続き検討する。

V 科学運動・学術体制

①歴史学研究会のこれまでの活動の歴史を踏まえ、歴史学の現状や諸課題に深く関わる社会的問題や学術体制をめぐる問題などについて、声明・集会などの社会的アピールを含めて積極的に対応する。
②改憲、アジア太平洋諸国に対する戦争責任、象徴天皇制の政治的利用、「日の丸」「君が代」の強制、メディア規制など、民主主義に関わる諸問題に対し、積極的な行動をとる。
③歴史教育と歴史教科書問題に取り組む。不当な教科書攻撃に反対し、子どもと教科書全国ネット21などの活動を支える。また日本教育再生機構・教科書改善の会・新しい歴史教科書をつくる会などによる歴史認識を歪めようとする活動を批判し、あるべき教科書制度について議論する。
④行政機関が所蔵する公文書の公開の問題に、歴史学の立場から取り組むとともに、「特定秘密の保護に関する法律」の撤廃をめざす。
⑤「公文書等の管理に関する法律」の運用をめぐって、市民の共有財産としての公文書が適切に管理・公開されるよう働きかける。また、将来の歴史資料としての公文書という視点から、公文書館などの制度的位置づけや公文書の移管・保存に関する諸問題に取り組む。
⑥文化財保護、「陵墓」の保存と公開などの問題に積極的に取り組む。歴史的に重要な遺跡・史資料の保存についても必要な活動を行う。
⑦歴史学の立場から、博物館・公文書館などのあり方に注目する。その際に、学芸員・アーキビストなどの研究の自立性と権利を擁護し、学術・文化財行政の責任を明らかにする活動に努める。他団体とも協力して、博物館・公文書館などに対する社会的な認知度を高め、各機関・施設における史資料の収集・保存・公開機能の充実に必要な活動を行う。
⑧日本学術会議・日本歴史学協会などの学術団体を支援し、相互の関係を緊密に保つとともに、その組織の強化に努める。また日本史研究会・歴史科学協議会・歴史教育者協議会・歴史資料ネットワーク・地方史研究協議会などとの協力関係を推進する。
⑨改善の兆しがみられない若手研究者問題について、従来と異なるアプローチで取り組む。特に研究者番号の取得・奨学金の拡充・就業機会の増大のための抜本的方策を打ち出せるよう、他の学術団体とも緊密に連携する。
⑩科学運動については、専門部を超えて委員の関心と専門を考慮し、課題に応じて担当者または担当グループを設ける。課題には委員会全体で取り組み、研究・編集活動とのバランスに留意しつつ、事務局長が全体を統括する。