- 声明 パレスチナ・ガザ地区における人命と歴史への無視を強く非難し、軍事行動の即時停止を求める(2025.05.19)
- 緊急声明 歴史研究者として、学術研究の独立性を棄損する日本学術会議の法人化に反対し、日本学術会議法案の廃案を求める(2025.05.02)
声明 パレスチナ・ガザ地区における人命と歴史への無視を強く非難し、軍事行動の即時停止を求める
2023年10月のハマスによる奇襲攻撃をきっかけに始まったイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への侵攻は、1年半あまりが経過した現在に至っても継続的に停止されることがなく、この間、多くの人命が失われ続け、人々の尊厳、財産、文化が破壊され続けている。今回の武力衝突の端緒となったイスラエル南部でのハマスによる襲撃では約1200人が死亡し、現在なお拘束されている人質がいる。他方で、イスラエル軍によるガザ地区での軍事行動による住民の死者数は2025年5月までに5万3000人を超えた。また、ヨルダン川西岸地区でもこれまで1000人近いパレスチナ住民が殺害され、波及したレバノンでのイスラエル軍とヒズボラとの衝突によっても、2024年11月の停戦までの間に多くのレバノン市民を含む3000人余りが死亡した。そして、死者数をはるかに上回る人々が負傷し、親族縁者の犠牲に苦しんでいる。生活インフラの大規模な破壊と人道支援の封鎖によって人々の日々の生活と将来への展望は極めて困難なものになり、文化財の広範な消失によって地域の現在と過去との絆が断ち切られようとしている。
民間人を対象とした武力による攻撃はいかなる場合にも許されるものではない。とりわけ、「自衛権」の名のもとにガザ地区で遂行されているイスラエルによる軍事行動は、病院、学校、文化施設、国連施設をも標的とし、膨大な民間人の犠牲者を出し続けており、国際法に明白に違反し、けっして正当化できない。イスラエルは、国際司法裁判所による2024年1月のジェノサイド防止暫定命令、国際刑事裁判所による同年11月の首相らに対する戦争犯罪と人道に対する罪の疑いでの逮捕状発行をはじめとする国際社会の意思表明を真摯に受け止め、即座に軍事行動を停止すべきである。
パレスチナにおける継続する暴力は、1993年のパレスチナ暫定自治合意後の二国家共存の実現が行き詰まり、1967年国連安保理決議242に違反したイスラエルによるガザ・ヨルダン川西岸地区の占領が継続していることを背景とするが、さらに、近代以降の欧州諸国による植民地支配、長きにわたる欧州でのユダヤ人迫害にまでさかのぼるものである。この連鎖はただちに断ち切られなければならない。
負の連鎖を断ち切ることは、歴史を無視することではない。中東の歴史と文化と人々の生活が守られるということは、反ユダヤ主義、植民地主義、占領支配という負の過去とも対峙し続けることである。2025年2月にアメリカ合衆国大統領が公言したような、合衆国によるガザ地区の「所有」、ガザ地区住民の域外への「再定住」等の提案は、地域の人々の人権と尊厳を軽視し、正と負の過去をあわせもつ歴史と向き合うことを拒否するものであり、けっして容認することはできない。また、ハマスによる武力行動に対する非難が移民排斥を正当化することも、イスラエル軍によるパレスチナ人の大量殺害への抗議が反ユダヤ主義に結びつけられ、言論の自由を脅かすこともあってはならない。そして、こうした言説、潮流を諦観することも、傍観することも拒否しなければならない。
歴史学研究会委員会は、現下のガザ地区における人命と歴史への無視を強く非難し、軍事行動の即時停止を求める。
2025年5月19日
歴史学研究会委員会
緊急声明 歴史研究者として、学術研究の独立性を毀損する日本学術会議の法人化に反対し、日本学術会議法案の廃案を求める
歴史学研究会は、日本の歴史学研究を代表する学会のひとつとしての信念に基づき、2025年3月7日に閣議決定され、今通常国会において審議中の日本学術会議法案の廃案を強く求める。本法案は、学術研究者による自律的な会員の選考と、政府の介入を受けない独立した活動であるべき学術研究の自由を毀損し、それにより、「ナショナル・アカデミー」としての日本学術会議の意義を侵害するものであり、その成立に断固反対する。
今から80年前の敗戦に至るまでの時期、歴史学をはじめとする日本の学術研究は、自由で民主的な社会の構築にむかうことなく、戦争の開始と遂行に関与した。1932年に創立した歴史学研究会は、戦前期におけるこのような経験に対する強い反省に立脚し、学術研究の自律的な営みが、自由で民主的で平和な社会の存立基盤であることを確信して、その追求を使命とする。
日本の学術研究が、将来にわたって日本社会と世界に対して真に貢献するため、本法案を廃案とし、学術研究の独立と自由に基づいた日本学術会議のあり方を引き続き議論することを求める。
2025年5月2日
歴史学研究会委員会