即位の礼・大嘗祭に反対し、天皇の政治利用を批判する(共同声明)

 本年4月30日に明仁天皇が退位し、5月1日に徳仁天皇が皇位を継承した。政府は、これに続き、10月下旬から11月上旬にかけて「即位の礼」に関わる残りの儀式・行事を行い、さらに11月14・15日に大嘗祭を挙行しようとしている。
 先の昭和天皇から明仁天皇への「代替わり」にともなう一連の儀式・行事について、われわれは、日本国憲法における国民主権原理や政教分離原則への違反、戦前の天皇主権体制への回帰・天皇制の美化などといった問題点を指摘し、反対の意思を表明してきた。
 今回、政府は、国事行為と皇室の儀式・行事とを分離することで、一定の配慮を示している。しかし、5月1日に国事行為として行われた「剣璽等承継の儀」は、日本神話に根拠を置くレガリアの継承を含む儀式、10月22日に同じく国事行為として行われた「即位礼正殿の儀」は、新天皇が高御座に登壇即位する儀式であり、いずれも神話性が強く、政教分離原則と抵触する疑いが濃厚である。また大嘗祭および関連の儀式・行事については、神道形式で行う宮中祭祀であるにもかかわらず、公費である宮廷費が支出されており、明確に政教分離原則に違反するものである。さらに5月1日の「即位後朝見の儀」と10月22日の「即位礼正殿の儀」では、壇上の天皇に対し首相が壇下から言葉を発しており、日本国憲法の国民主権原理にそぐわない。
 かつ、これら諸儀式・行事には、強固なイデオロギーが存在する。これら諸儀式・行事は、古代以来の前近代において伝統的に用いられてきた中国的なあり方を払拭し、実際には伝統に基づかない明治以降の歴史の浅い儀式を、あたかも古代以来の伝統的儀式であるかのように装ったものである。そしてこのような偽装によって天皇制の古さ・伝統性を強調し、日本国における天皇制存続の正当性を宣布しようとするものであることは明らかである。戦後の学術的歴史研究は、天皇制の神話性、万世一系の天皇の地位を否定し、時代に応じた王権の機能・天皇権威の歴史性、さらにアジア太平洋戦争において天皇制が果たした役割を解明することを通じて、日本国憲法下における天皇制のあり方を問い続けてきた。
 平成の「代替わり」に続いて、ほぼ同じ内容で「代替わり」の諸儀式・行事を挙行し、天皇制の永続をはかろうとすることは、こうした歴史研究の成果を全く無視するものである。少なくとも「代替わり」の諸儀式・行事は、政教分離原則を徹底し、国民主権原理に即した形で行われるべきであり、このたびの「即位の礼」「大嘗祭」の挙行には強く反対の意思を表明したい。
 それとともに、今回の「代替わり」が、明仁天皇の退位にともなうものであるため、政府は、マスコミ・経済界などを動員して、「祝賀」ムードへの同調を強制している。たとえば、内閣府をはじめとする政府機関を後援者として、11月9日には「天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典」と称するイベントが開催される。自治体レベルにおいても、「祝賀」の記帳やさまざまな「奉祝」行事が行われている。これらは、国民を天皇の賛美に動員すると同時に、現代日本の政治や社会の矛盾を覆い隠そうと意図している。それは、日本国憲法の規定による天皇の政治的位置や役割をはるかに超えた天皇の政治利用に他ならない。
 われわれ歴史研究者・教育者からなる四学会は、戦争における加害・植民地支配の責任問題の追究、歴史教科書問題への取り組み、陵墓公開運動などの科学運動を通して、歴史のなかにおける天皇制の果たした負の側面を明らかにし、天皇の政治利用に反対してきた。今回の「代替わり」においても、天皇の政治利用への批判の態度を明確にし、反対する強い意思を表明するものである。

2019年11月7日

日本史研究会
歴史科学協議会
歴史学研究会
歴史教育者協議会

「即位の礼」と大嘗祭に対する抗議声明

 日本国憲法下で2回目となる「即位の礼」と大嘗祭が目前に迫っている。
 明治以降初めてとなる天皇の譲位のきっかけは、2016年8月のいわゆる「天皇のビデオメッセージ」にある。現天皇の「発意」を受けて、政府が有識者会議を開き、天皇の意思を忖度するかたちで事態が進行していった。しかし、そもそもこのような事態こそ、天皇の政治的関与を禁じた日本国憲法第4条に抵触するといわざるをえない。
 同様に批判すべきは、皇室典範問題である。現行の皇室典範に規定がないために、天皇はどんなに高齢であっても譲位ができないということが問題であるならば、国会の審議を経て皇室典範自体を改正すべきである。しかし、政府・与党は現天皇一代限りの特例法ですませることを主張し、皇室典範改正を主張する野党との妥協の結果、皇室典範と「一体をなす」特例法の制定という不当な政治決着で本件の幕を引いたのである。
 こうして、特例法の可決・成立ならびに天皇「退位」の日を定める政令が公布された結果、本年4月30日に現天皇が譲位する見込みとなった。その後、5月1日に「剣璽等承継の儀」と「即位後朝見の儀」が、10月22日に「即位礼正殿の儀」と「祝賀御列の儀」が、10月22日から複数回の「饗宴の儀」が、一連の「即位の礼」として挙行されることが決定され、11月14-15日には大嘗祭が執り行われることとなった。
 神器の継承儀式である「剣璽等承継の儀」と、天皇が檀上から「おことば」を読み、国民の代表である内閣総理大臣がそれに対して事実上の「奉答」を行う「即位後朝見の儀」は、ともに憲法の定める国民主権原理と政教分離原則に照らして疑義が呈されている。それにもかかわらず政府は、十分な国民的合意を欠いたまま、国事行為としてこれらの儀式を強行しようとしている。
 なお、前回1990年11月の「即位の礼」・大嘗祭のとき政府は、一連の行事のうち、束帯を着て高御座に昇った天皇が即位を内外に宣言する「即位礼正殿の儀」、オープンカー・パレードである「祝賀御列の儀」、4日間にわたって開かれる晩餐会「饗宴の儀」の3つの儀式のみを国事行為として、それ以外は「皇室の公的行事」として便宜的につかいわけることで、政教分離違憲行為に抵触することを巧妙に避けようとした。しかしながら、この「皇室の公的行事」のなかには、きわめて宗教的色彩の濃い神事である大嘗祭も含まれており、それにも国の公金が支出されるなど、日本国憲法第20・89条などで定める政教分離原則に明らかに違反する行事が執り行われたのである。
 そして今回も、「即位礼正殿の儀」、「祝賀御列の儀」、「饗宴の儀」と大嘗祭に関して、政府は前回を踏襲する方針をとっている。つまり、国事行為と「皇室の公的行事」とでつかいわけつつ「即位の礼」・大嘗祭をおこない、神事=宗教儀式である大嘗祭に国の公金を投入しようとしているのである。宮内庁の発表によると、大嘗祭にかかる費用として来年度予算案に、公費にあたる「宮廷費」としておよそ18億円が盛り込まれ、総費用は27億円にものぼるという。
 以上、天皇の「発意」から始まり、現天皇の譲位、新天皇の「即位の礼」と大嘗祭をめぐる事態の進行をみるとき、日本国憲法の規定する天皇の政治的関与の禁止、政教分離原則、ひいては国民主権原理がふみにじられていることに強い危機感と、憤りを感じざるをえない。憲法の原則に反する儀式を含む「即位の礼」ならびに大嘗祭が行われようとすることに対して、本会は断固抗議する。

2019年2月8日
歴史学研究会委員会