部会合同シンポジウム

2019年

近代史部会・現代史部会合同書評会

「戦時期日本社会史の新地平」
日時:2019年7月6日(土) 13時~17時
場所:早稲田大学早稲田キャンパス22号館201教室

対象書籍・評者・コメンテーター:
①細谷亨『日本帝国の膨張・崩壊と満蒙開拓団』(有志舎、2019年)
  評者:安岡健一氏
②佐々木啓『「産業戦士」の時代―戦時期日本の労働力動員と支配秩序―』(大月書店、2019年)
  評者:町田祐一氏
コメント:小野沢あかね氏(ジェンダーの視点から)
著者リプライ:細谷亨氏・佐々木啓氏
資料代:500円(※事前申込不要)

〔開催主旨〕
 本年、戦時期日本を対象とした堅実な研究成果が、細谷亨氏、佐々木啓氏によって刊行された。これを機に歴史学研究会近代史部会・現代史部会では、戦時期日本社会史研究の新たな視座を切り拓くために、このたびシンポジウム形式での書評会を両部会合同で開催する運びとなった。
 一九三〇~四〇年代の戦時期日本に関する歴史研究は、ファシズム論以来の蓄積があるが、一九九〇年代における総力戦体制論の提起が一つの画期となった。戦時における社会・経済システムの変化を強調したその論調への批判から、その後の歴史研究が追究したのは、理念で覆い隠せぬ現実、現場の実態を描き出すことだった。
 そうした成果は、まずは経済統制や物資動員などを対象とした経済史の分野で積み重ねられ、ついで明治憲法体制がはらむ制度的桎梏への対処を主題とする政治史研究が続いた。また戦争を支えた娯楽や宣伝(メディア)にも注目が集まり、戦時文化や社会政策に関する分析が進展した。
 他方で、戦時の到来が、膨大な人の移動をもたらしたことも、重要な論点となっている。動員と復員、外地への移植民と引揚げ、労働力の配置転換、疎開や買い出しなど、さまざまな移動の中で、人びとは「地域」を越え、「他者」と出会った。
 こうした研究状況を一層深化させるものとして、近年では戦時社会を生きた人びとの視座にもとづく社会史と言い得る研究が、新たな潮流として現れてきた。個人や主体を不可視化してきた構造主義的な議論への反発、あるいはシステム転換による社会の「平準化」を主張した総力戦体制論を乗り越えようとする模索のなかから、いま一度人びとの主体に着目することが、戦時期をとらえるうえで重要な拠点となってきている。
 本書評会でとりあげる二著作は、いずれもそのような新たな研究潮流を牽引するものといえるだろう。
 細谷亨氏による『日本帝国の膨張・崩壊と満蒙開拓団』は、日本帝国の膨張過程における満洲移民の動員・送出過程や、地域から送り出された開拓民の満州現地での農業経営・生活実態、あるいは開拓団と母村の関係や異民族支配の動向を明らかにした研究である。
 一方、佐々木啓氏による『「産業戦士」の時代―戦時期日本の労働力動員と支配秩序―』は、戦時期に特徴的な「産業戦士」という呼称に注目することで、政府による政策と人びとの経験の両方から、「同意」を通じた人びとの支配のありようについて解明している。
 そのうえで両著は、戦時の「経験」や「体験」を重視し、必ずしも明確な線を引けるわけではない戦時から戦後への人びとの軌跡に目を凝らすことで、重層的な戦時期像の提出を試みている。その際、手記や回想録、あるいは聞き取り記録といったパーソナルな史料を積極的に活用していることも共通している。他方で、細谷氏の場合は農業史・移民史、佐々木氏の場合は労働史・民衆史といった、それぞれ独自の研究分野においても重要な論点を提起していることは言うまでもない。
 以上のように、今回の合同書評会では、人びとの視座にもとづいて戦時期像を描いた両著を対象とすることで、戦時期日本社会をめぐる歴史研究をより前進させたい。細谷氏の著作に対しては、農業史を専門とする安岡健一氏に、佐々木氏の著作に対しては、都市労働政策史を専門とする町田祐一氏に書評をお願いした。また、ジェンダーの視点から小野沢あかね氏にコメントをいただくことで、より多角的な観点から議論を深めたい。なお、三氏による報告・コメントに対しては、著者である細谷、佐々木両氏からのリプライも予定している。当日は、フロアからの発言も含めた活発な議論を期待している。



2015年

 第三回部会合同シンポジウム
 「宗派化とキリシタン禁制―日欧交流と宗教的秩序の形成―」

日時 2015年1月11日(日) 10時30分~17時30分(開場10時)
会場 東京経済大学 国分寺キャンパス四号館D101教室
国分寺駅南口より徒歩12分

報告
踊共二 《近世》の宗教と政治―日欧比較の一視点―
大橋幸泰 近世日本の異端的宗教活動と信仰者の宗教的属性
  -潜伏キリシタンと隠れ/隠し念仏-
木﨑孝嘉 「殉教録」とともにヨーロッパに帰国した修道士たち 
大場はるか 近世ドイツ語圏南部の「宗派化」と日本のキリシタン
  -演劇と絵画に見られる宗派間の対立と日本認識-
中園成生 かくれキリシタン、信仰と信者の実像

参加費 500円

開催主旨
 日本近世史部会とヨーロッパ中近世史部会は、2013年1月12日に「『近世化』論と日本―『東アジア』の捉え方をめぐって―」と題する合同シンポジウ ムを行った。近年の歴史学の重要テーマである「近世化」論を中心に据えたシンポジウムは大きな関心を集め、当日は多数の出席者を得て、領域横断的な議論が 活発に行われた。
 日本と東アジアを主たる対象として展開している「近世化」論は、東アジア独自の発展、すなわち「近世化」の過程に注目し、その流れの中に日本史を位置づ けようとする。しかし、この議論は、日本と東アジアの関係だけでなく、ヨーロッパとの関係をも視野に入れ、さらにスケールの大きなものにヴァージョン・ アップすべきであるように思われる。ヨーロッパ史研究の動向を見ても、近世という時代が注目されるようになって久しい。およそ一六世紀から一八世紀までを 含みこむこの時代は、近代の準備期、中世と近代の過渡期という以上の独自性と重要性を備えていたことが明らかになってきたのである。
 こうした日本史とヨーロッパ史の双方における近世史研究の動向を踏まえるならば、「宗教」あるいは「宗教的秩序」をキー概念として、新しい日欧の共同研 究の可能性を模索することは、有意義な試みと言えよう。近年、日本近世史では宗教社会史の研究が盛んであり、日本のキリシタンを論じた文献も続々と出版さ れている。そこで問題とされるのは、イエズス会宣教師らがもたらしたヨーロッパのインパクトであり、これを受けた幕藩権力・宗教者・民衆の関係である。 「キリシタン禁制」の担い手であった幕藩権力は、社会秩序維持の観点から、キリシタンをはじめとする民衆の「異端」的宗教活動に対する新たな統制策を構築 した。そしてこうした権力の監視のもと、民衆の一部は「かくれキリシタン」として、キリスト教をアレンジしながら独自の信仰実践を確立していった。
 またヨーロッパ近世史研究では、「宗派化」というテーマが注目されている。宗教改革以降のキリスト教世界のカトリックとプロテスタントへの分裂を前提と して、統治権力は、支配領域内部の宗派的統合を推し進めた。しかし、こうした統治権力への適合や反発とともに、被支配民の間には、信仰の内面化や個人主義 的傾向、あるいは異宗派に対する寛容の動きが発生した。近年の研究は、こうした宗教と政治の独特の絡まり合いの中で生成される、近世ヨーロッパ社会の独自 性を明らかにしようとしている。そして最近では特に、このヨーロッパの「宗派化」に、日本布教が与えたインパクトが注目されている。日本布教の様子は、イ エズス会士をはじめとする宣教師たちの報告書や、その内容を脚色した演劇などを通じて伝えられ、人々の信仰心に訴えかけたのである。
 以上の日本、そしてヨーロッパの近世史研究は、大きく重なり合うところがある。第一に、両者の研究の方法論の類似性を見逃すことはできない。両研究は、 対象として統治権力・宗教者(寺社や教会など)・民衆の相互的な関係のもとで、宗教的秩序が構築されていく過程を論じている。第二に両研究は、統治権力に よって禁止された後の宗教の動向に注目しており、ここに比較史的な研究の可能性を指摘できる。そして第三に、いずれも日本とヨーロッパという二つの近世社 会の相互的な影響関係に注目している。したがって、日本近世史とヨーロッパ近世史の研究者がこれらの問題について議論することは、各々の研究領域におい て、新しい研究の可能性を拓くきっかけとなるばかりか、両者の更なる共同作業の出発点ともなるだろう。
 右の課題設定のもと、本シンポジウムでは、踊共二、大橋幸泰、木﨑孝嘉、大場はるか、中園成生の五氏に報告を依頼した。
はじめに、ヨーロッパ近世史の「宗派化」論を打ち出した研究者であり、長崎のキリシタン信仰の実地調査にかかわった経験も持つ踊氏から、近世の宗教的秩序 をテーマとする日欧の比較研究の可能性について論じていただく。その後、日本史から大橋氏、ヨーロッパ史から木﨑氏・大場氏、日本民俗学から中園氏に、最 新の研究成果をご報告いただき、実証的かつ具体的な事象に基づく議論の構築をめざす。当日は狭義の時代・地域を越えて多くの方にご参加いただき、多方面か ら活発に議論が行われることを切に希望する。