2025年2024年2023年2022年2021年以前

2019年

近代史部会・現代史部会合同書評会

「戦時期日本社会史の新地平」
日時:2019年7月6日(土) 13時~17時
場所:早稲田大学早稲田キャンパス22号館201教室

対象書籍・評者・コメンテーター:
①細谷亨『日本帝国の膨張・崩壊と満蒙開拓団』(有志舎、2019年)
  評者:安岡健一氏
②佐々木啓『「産業戦士」の時代―戦時期日本の労働力動員と支配秩序―』(大月書店、2019年)
  評者:町田祐一氏
コメント:小野沢あかね氏(ジェンダーの視点から)
著者リプライ:細谷亨氏・佐々木啓氏
資料代:500円(※事前申込不要)

〔開催主旨〕
 本年、戦時期日本を対象とした堅実な研究成果が、細谷亨氏、佐々木啓氏によって刊行された。これを機に歴史学研究会近代史部会・現代史部会では、戦時期日本社会史研究の新たな視座を切り拓くために、このたびシンポジウム形式での書評会を両部会合同で開催する運びとなった。
 一九三〇~四〇年代の戦時期日本に関する歴史研究は、ファシズム論以来の蓄積があるが、一九九〇年代における総力戦体制論の提起が一つの画期となった。戦時における社会・経済システムの変化を強調したその論調への批判から、その後の歴史研究が追究したのは、理念で覆い隠せぬ現実、現場の実態を描き出すことだった。
 そうした成果は、まずは経済統制や物資動員などを対象とした経済史の分野で積み重ねられ、ついで明治憲法体制がはらむ制度的桎梏への対処を主題とする政治史研究が続いた。また戦争を支えた娯楽や宣伝(メディア)にも注目が集まり、戦時文化や社会政策に関する分析が進展した。
 他方で、戦時の到来が、膨大な人の移動をもたらしたことも、重要な論点となっている。動員と復員、外地への移植民と引揚げ、労働力の配置転換、疎開や買い出しなど、さまざまな移動の中で、人びとは「地域」を越え、「他者」と出会った。
 こうした研究状況を一層深化させるものとして、近年では戦時社会を生きた人びとの視座にもとづく社会史と言い得る研究が、新たな潮流として現れてきた。個人や主体を不可視化してきた構造主義的な議論への反発、あるいはシステム転換による社会の「平準化」を主張した総力戦体制論を乗り越えようとする模索のなかから、いま一度人びとの主体に着目することが、戦時期をとらえるうえで重要な拠点となってきている。
 本書評会でとりあげる二著作は、いずれもそのような新たな研究潮流を牽引するものといえるだろう。
 細谷亨氏による『日本帝国の膨張・崩壊と満蒙開拓団』は、日本帝国の膨張過程における満洲移民の動員・送出過程や、地域から送り出された開拓民の満州現地での農業経営・生活実態、あるいは開拓団と母村の関係や異民族支配の動向を明らかにした研究である。
 一方、佐々木啓氏による『「産業戦士」の時代―戦時期日本の労働力動員と支配秩序―』は、戦時期に特徴的な「産業戦士」という呼称に注目することで、政府による政策と人びとの経験の両方から、「同意」を通じた人びとの支配のありようについて解明している。
 そのうえで両著は、戦時の「経験」や「体験」を重視し、必ずしも明確な線を引けるわけではない戦時から戦後への人びとの軌跡に目を凝らすことで、重層的な戦時期像の提出を試みている。その際、手記や回想録、あるいは聞き取り記録といったパーソナルな史料を積極的に活用していることも共通している。他方で、細谷氏の場合は農業史・移民史、佐々木氏の場合は労働史・民衆史といった、それぞれ独自の研究分野においても重要な論点を提起していることは言うまでもない。
 以上のように、今回の合同書評会では、人びとの視座にもとづいて戦時期像を描いた両著を対象とすることで、戦時期日本社会をめぐる歴史研究をより前進させたい。細谷氏の著作に対しては、農業史を専門とする安岡健一氏に、佐々木氏の著作に対しては、都市労働政策史を専門とする町田祐一氏に書評をお願いした。また、ジェンダーの視点から小野沢あかね氏にコメントをいただくことで、より多角的な観点から議論を深めたい。なお、三氏による報告・コメントに対しては、著者である細谷、佐々木両氏からのリプライも予定している。当日は、フロアからの発言も含めた活発な議論を期待している。