小池百合子東京都知事による「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典」への追悼文送付取り止め措置に対する抗議声明


 今年8月、小池百合子東京都知事は、毎年9月1日に東京都墨田区横網町公園で行われている9.1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典(主催:9.1関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典実行委員会)に、これまで歴代知事が毎年送付していた追悼文を送らないという決定を下した。直ちに主催者が本決定に対する抗議声明を発したが、結局式典に知事の追悼文は送付されなかった。歴史学研究会委員会は、本件について以下の問題点を指摘し、今回の知事の行為に断固反対するとともに、知事にこの措置の早急なる撤回を求める。
 第一に、小池知事の今回の措置は、日本の加害の責任に向き合うどころか、関東大震災時の朝鮮人虐殺のような事件を繰り返してはならないという、従来の反省をもないがしろにすることになった。知事は8月25日の記者会見において本措置について問われると、3月と9月に東京都慰霊協会が主催する関東大震災と戦災遭難者を慰霊するための大法要において、関東大震災時の被害者全体に対して追悼の辞を述べることにしたため、特定の被害者に追悼文を送るつもりはないと答えた。しかし、関東大震災時の朝鮮人虐殺事件の犠牲者は、地震そのものの被害による犠牲者とは異なる。つまり、本事件の犠牲者は、地震後の根拠のない流言を信じた日本人によって虐殺された犠牲者なのである。私たちは常に歴史の事実に向き合い、いかなるときもその反省のうえに立った行動が要請されている。にもかかわらず、知事は歴史の事実を無視し、反省の意思をいっさい示そうとしない。断固反対する。
 第二に、今回の小池知事の措置は、関東大震災における朝鮮人虐殺の事実を否定しようとする歴史修正主義の動きを後押しすることに繋がる。知事が追悼文を送付しないとの決定を下したのは、本年3月の東京都議会における自民党の古賀俊昭都議会議員による質問がきっかけとなっている。そもそも都議の発言は、何らの確かな資料に基づくことなく、震災当時の流言を事実と認識するなど、きわめて不当であった。古賀都議はこの中で、横網町公園に設置されている追悼碑に記載された犠牲者数に異論があるとしてその撤去を求め、知事にも追悼文を送らないよう要請した。犠牲者数に疑義を呈してこの碑の正当性をも否定し、あたかも虐殺がなかったかのような発言をするのは、本事件の歴史的経緯を無視した言いがかり以外の何ものでもない。朝鮮人虐殺事件については、発生直後から当時の日本政府・軍隊・警察が虐殺を隠蔽し続け、敗戦後も政府は真相究明に積極的に取り組んではこなかった。ゆえに、真相の解明は当時から近年に至るまで困難を極めていたのである。このような中であっても、本事件の様相が明らかになってきたのは、地域において聞き取りを行なうなど粘り強く事実を掘り起こしてきた人々と研究者が手を取り合い、地道に史実を明らかにしてきたからなのである。こうした成果は無視されてはならない。政府の中央防災会議が作成した「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書」に収録されている「1923 関東大震災(第2編)」(2009年)においても、震災直後に飛び交った流言や、それによって起こった虐殺事件の実態と背景の分析がなされており、本事件を歴史の教訓として重く受け止めるべきとの姿勢が示されている。知事は8月25日の会見で、朝鮮人虐殺がなかったとの批判に対してどう考えるかと問われると、「さまざまな歴史的な認識があろうかと思っております」と回答している。知事は追悼文を送らないことに加えて、朝鮮人虐殺の事実を著しく相対化することによって、結果的に古賀都議のような虐殺を否定しようとする歴史修正主義の動きを後押ししているのである。看過できるものではない。
 第三に、小池知事は差別を軽視・黙認・放置している。関東大震災における朝鮮人虐殺の大きな原因となったのは朝鮮人に対する差別や偏見であるが、知事は会見において「民族差別という観点というよりは、私はそういう災害で亡くなられた方々、災害の被害、さまざまな被害によって亡くなられた方々に対しての慰霊をしていくべき」と述べている。ここで知事は自然災害による被害の慰霊を強調するあまり、虐殺の原因となった差別を結果的に軽視・黙認・放置している。都政の長である知事は都政に大きな権限を持つため、その影響力もまた大きい。実際に、墨田区長は従来の慣行を破り、今年は追悼文を送らなかった。このような連鎖が続いていけば、朝鮮人虐殺の事実はいずれ歴史から葬られてしまう恐れがある。このため、在日朝鮮人をはじめとするマイノリティの不安を極度に高めてしまっているのである。知事がこのように差別を黙認することで、結果的にマイノリティの人権を軽視するような事態は避けなければならないし、決して許されるものではない。 
 歴史学研究会委員会は、小池知事による追悼文の送付取り止め措置に対して、上記の理由から強く抗議する。そして、日本の加害の事実に向き合い、被害者の尊厳を少しでも回復するため、直ちに追悼文を送付することを要求する。同時に、都としてもこの事件の真相や責任の所在の究明に積極的な方策をとるよう求める。   

2017年9月29日
歴史学研究会委員会