吉見裁判最高裁決定に対する抗議声明

 
 2017年6月29日、最高裁判所第一法廷(裁判長小池裕)は、桜内文城前衆議院議員(当時日本維新の会)の吉見義明さんに対する名誉棄損事件について、吉見さんの上告を棄却し、上告審としてこれを受理しないという、きわめて不当な決定(以下、最高裁決定)を下した。
 本事件は、2013年5月27日に桜内前議員が日本軍「慰安婦」に関する吉見さんの著書を「捏造」であると発言したことにより、吉見さんの名誉が棄損されたという事件である。これを受けて下された、去る2016年5月30日付の東京高裁の判決(以下、高裁判決)は、以下の桜内発言「ヒストリーブックスということで吉見さんという方の本を引用しておられましたけれども、これは既に捏造であるということが、いろんな証拠によって明らかとなっております」のなかの「これは」が指示している語が「吉見さんという方の本」と特定できないとして、名誉棄損は成立しないと断じた不当判決である。この控訴棄却にはいかなる論理性もなく、このこと自体、日本における司法の衰退を如実に表しているといわざるをえない。このような状況下、最後の頼みの綱となったのが最高裁であった。しかし、今回の最高裁決定も、このきわめて不当な高裁判決になんらの批判も加えなかった。このことは、有権者が司法権に付託した責務を最高裁が自ら放棄したことを意味するのである。
 いつの時代もわれわれ歴史研究者は、真理の探究の結果に基づいて、あらゆる不合理と不正を衝き、その是正を図る責任を人類に対してもっている。しかしその実現には、いかなる権威や権力にも左右されない「学問の自由」の確保が不可欠なのである。これは世界普遍の原則である。にもかかわらず、今回、最高裁は、一政治家がなんの正当な手続きもなく、なんの学問的根拠もなく、研究者による真理の探究結果についていとも簡単に「捏造」と決めつけたことをいっさい批判しない。そして、この状態を放置し続けている。日本国憲法第23条も保障する「学問の自由」の侵害といわざるをえない。最高裁は吉見さんをはじめとするわれわれ歴史研究者を、研究者が享受する自由と権利の埒外に置こうというのか。
 「学問の自由」は、近現代史の激動のなかで、人類の英知が幾多の血を流しながら獲得してきた財産である。一時期の不当な最高裁決定が「学問の自由」を抑圧するようなことがあれば、必ずや日本の将来に禍根を残すことになろう。われわれ歴史研究者は、最高裁決定が吉見さんの日本軍「慰安婦」に関する研究結果を「捏造」と認定しているわけではないことに一縷の望みをかけつつも、この不当決定に内在する「学問の自由」の侵害行為に強く抗議する。

歴史学研究会委員会
2017年7月28日