「高輪築堤」の保存を求める要望書


関係機関各位
 東京都港区における東日本旅客鉄道会社(以下JR東日本)の「品川開発プロジェクト」にともなう発掘調査によって、1872年(明治5)に開業した日本最初の鉄道の遺構である「高輪築堤」が発見されたという情報は、全国的に大きなインパクトをもって伝えられました。
 遺構の保存等については、発見時に所在地にあたる港区教育委員会がその重要性に基づき、事業者であるJR東日本に対して現状保存を要請したと伺っております。その後、有識者と関係者による「調査保存等検討委員会」が立ち上がり、保存をめぐり様々な議論が交わされているとも聞き及んでおります。それに並行して、産業遺産学会、日本考古学協会(埋蔵文化財保護対策委員会)が遺構の保存を求める要望書を提出し、別途、鉄道史学会・都市史学会・首都圏形成史研究会・地方史研究協議会・交通史学会も連名で、遺構の保存や公開を求める要望書を提出するという状況となっています。このような諸学会の動向からも、「高輪築堤」の保存を願う声は日増しに広がってきていることがわかります。
 わが国の歴史学系学会の連合組織である日本歴史学協会は、諸学会のこうした要望を全面的に支持することを表明するとともに、新たに、賛同学会と連名で「高輪築堤」の保存を求める要望書を出すことにしました。
 まず、「高輪築堤」の歴史的評価については、日本の近代化を牽引した創業期の鉄道の姿を目の当たりにすることができる貴重な遺構であること、産業史・鉄道史・交通史などの分野に留まらず、日本近代史を象徴する、重要な歴史遺産であるということに異論はないものと思われます。工学・技術史的な側面では、イギリス人技師の指導による西洋の鉄道建築の技術に、日本で受け継がれてきた手法が融合した、ハイブリットな構造物であるという特徴が認められます。とくに、第7橋梁部と周辺の水路跡については、その希少性に加えて、保存状況の良好さも評価されており、遺構全体の中でも重要な部分に位置づけられています。このような学術的価値の高さという点から判断すると、「高輪築堤」の現状保存を確実に行い、すみやかに国史跡の指定にむけた対応を取る必要があります。
 「高輪築堤」に対する注目は非常に高く、遺構の行く末や、保存の対応の方向性次第によっては、大きな反響が巻き起こることも予想されます。わたしたちは、「高輪築堤」遺構の保存・活用と地域開発との共存が、関係当事者間での協議や調整によって解決され、現実となることを願い、以下の点を要望いたします。
(1)開発プロジェクトの事業主体であるJR東日本に対しては、国有財産を日本国有鉄道から継承した事業者としての立場から、「高輪築堤」遺構が国民共有の重要な財産であることを十分に認識すること
(2)「高輪築堤」が、場所性と高く結びついた文化財である「史跡」としての価値が十分認められる点を考慮し、移設保存の方針を改め現地保存すること
(3)国史跡の指定に向け、国・都・港区などの関係者との協議や調整などの対応を図ること
 なお、「高輪築堤」は、1996年(平成8)に国史跡に追加指定された新橋横浜間鉄道の遺構である「旧新橋停車場跡」の延長線上にあり、新橋停車場と価値を同じくする貴重な遺構です。そのため、今後は「旧新橋停車場跡」とあわせた保存・活用を行う必要が生じることが想定されます。「旧新橋停車場跡」の国史跡への追加手続きに際しては、所有者であるJR東日本がその文化財的価値を認め、必要な手続きに入り、国史跡に追加指定されています。JR東日本は 「高輪築堤」に関しても、「旧新橋停車場跡」と同様の判断と保護措置を取るよう強く要望します。
もちろん、期限の定まった開発事業を進めていく中での緊急対応となれば、苦慮する場面も多々あるものと推察いたします。その中での、遺構の保存を前提とする、設計変更も含めた開発事業の見直しという判断は、後年、文化財の保存・活用と開発を両立させた事例として大きく評価されるものになるのではないかと考えます。英断を求めます。
 すでに、本年2月16日には、萩生田光一文部科学大臣が現地を視察し、「高輪築堤」を「明治期の近代化を体感できる素晴らしい文化遺産」であると述べ、都市開発の現状に一定の理解を示しながらも、遺構の現地保存との両立を前提とする、国史跡指定の方向性と国の支援に言及しています。この大臣発言は、非常に重要であり、国による「高輪築堤」遺構に対する方針の提示と今後の対応策を示したものと理解いたします。
 万一、交渉が途切れ、歴史上重要な「高輪築堤」が取り除かれるというような事態を招けば、文化財保護行政上の大きな失点にもなりかねません。関連する文部科学省・国土交通省・文化庁、東京都、港区に対しては、「高輪築堤」が有している文化財(史跡)としての本質的価値の高さと、保存の必要性、保護の緊急性という視点から、国史跡の指定にむけて、事業者への助言・調整などを継続的かつ積極的に進めていくことを要望いたします。

 2021年2月26日 
          
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