「つくる会」教科書の採択に抗議し、撤回を求める声明

全国の中学校で2010年度から使用される教科書の採択結果が発表され、「新しい歴史教科書をつくる会」による『新しい歴史教科書』<扶桑社>、および 『新編 新しい歴史教科書』<自由社>(以下では両教科書を「つくる会」教科書と総称)がいくつかの教育委員会によって採択されたことが明らかになった。 (栃木県大田原市、東京都杉並区、愛媛県立中高一貫校と特別支援学校では2005年に続いての継続採択、神奈川県横浜市の8区および愛媛県今治地区(今治 市と上島町)では新規採択、東京都立の既に開校している中高一貫校と特別支援学校では継続採択、来年度開校予定の中高一貫校では新規採択。横浜市のみ自由 社、他は扶桑社)。
わたしたち歴史学研究会は既にこれまでにも、「つくる会」教科書の問題点を指摘し、同教科書を採択しないよう訴えてきた。今回の採択にあたり、「つくる 会」教科書を採択したすべての教育委員会に改めて抗議し、その撤回と採択のやりなおしを求めるものである。
扶桑社版『新しい歴史教科書』に関し、歴史学研究会は2005年8月に『歴史研究の現在と教科書問題―「つくる会」教科書を問う―』を刊行し、その問題点 を詳細に分析・指摘した。すなわち、この教科書は歴史研究の成果を十分に踏まえておらず、事実関係の誤りが多いだけでなく、基本的に天皇中心・国家中心の 歴史観が貫かれており、日本の過去の戦争行為や植民地支配を正当化し、アジアを蔑視する記述が目立つ。私たちは、このような歴史教科書は学校教育の現場で 絶対に使われるべきではないと強く訴えてきた。
今回の採択では、「つくる会」の分裂の結果、従来の扶桑社版に加えて新たに自由社版『新編 新しい歴史教科書』も検定を合格し、二種類の「つくる会」教科 書が採択の対象となるという異常な状況となったが、自由社版教科書の内容は扶桑社版とほとんど同じである。「つくる会」教科書の重大な問題点は、扶桑社 版・自由社版を問わず共通している。
私たちは、教科書の採択にあたっては、直接それを使用して授業をおこなう教員の意見が一番に尊重されるべきであり、さらに保護者の意見も尊重されるべきで あると考える。ところが今回「つくる会」教科書を採択した教育委員会の審議や決定の経過をみると、現場の教員や保護者の意見は尊重されておらず、委員の意 見や誘導で採択が行なわれている。その背景には、「つくる会」教科書の採択をねらった首長が意図的に「つくる会」に賛同する人物を教育委員に任命する傾向 が認められ、教科書採択がこのように政治権力のむき出しの介入のもとで行なわれていることは憂慮すべき事態である。
  以上のように「つくる会」教科書はその内容に問題があるだけでなく、採択決定のあり方にも重大な問題がある。私たちは「つくる会」教科書を採択したすべて の教育委員会に対して強く抗議するとともに、採択の撤回とやりなおしを要請する。

2009年10月2日
歴史学研究会委員会