「海賊対策」を名目とする自衛隊の海外派兵拡大に反対する声明

 政府は「海賊対策」の名のもとに、3月中旬以降、アフリカ・ソマリア沖への自衛隊の派兵に着手した。並行して「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関 する法律」(以下、「海賊対処法」)案も提出され、わずか数日の審議で衆議院を通過、参議院では否決されたが、6月19日衆議院での再可決が強行された。
 ソマリア沖への自衛隊の派遣は、過去数年来日本政府がインド洋、イラク等で追求してきた、自衛隊の海外派兵拡大の動きの最新版である。(一連の動きの連 続性については麻生総理の6月30日の外交演説、また昨年8月22日の町村官房長官会見等を参照。)派遣後の自衛艦は、「補給支援特措法」に基いて既にイ ンド洋に展開している海上自衛隊と事実上一体化し、さらにバーレーンに基地を置く米第五艦隊と密接に連携しつつ活動している。情報収集を名目とするP3C 哨戒機の派遣と、それに伴うアフリカ本土(ジブチ)における基地建設、陸上自衛隊中央即応集団の派遣も開始された。
 「海賊対処法」は、このような自衛隊の活動を、今後はソマリア沖に限らず、「海賊対策」の名目さえあれば、一切の地理的限定なしに世界大で展開すること を可能にする恒久法である。任務遂行のための武器使用が初めて認められ、海外での武力行使の可能性が一気に増大した。また、日本だけでなく外国の艦船も警 備の対象とするという規定は、集団的自衛権の行使に道を開くものである。
 このような動きを正当化するため、「海賊」の脅威がことさらに強調され、「資源を輸入に依存している我が国にとって海上航行路の安全は国益」という主張 が繰り返されているが、資源や経済的利益を武力で守ろうという発想は危険である。歴史的に見て各国の海軍力増強は、「海賊」対策をこそ名目に進められてき た経緯がある。「匪賊」や「馬賊」に対する「警察行動」は、かつて日本が中国大陸等で軍事行動を行なう際の口実でもあった。
 商船等の安全確保は、現実には航路の迂回等の手段によって実現できるものである。また、「ソマリア海賊」問題の根本的解決を望むなら、戦略的・地政学的 利害からこの地域への支配・介入を繰り返してきた大国、さらに、国会質問等でも取り上げられたように、有毒廃棄物の不法投棄によって近隣の海を汚染し、漁 民の生活基盤を破壊したとされる先進諸国の責任等を問うことから始めねばならないだろう。
 「海賊対策」を名目とする今回の事態は、自衛隊の海外派兵を拡大・恒常化させ、自衛隊がアメリカの戦争に協力する形で世界中に展開することを可能にする 態勢を作り上げようとする動きの一環である。それは憲法9条を形骸化し、改憲に向けての既成事実作りを進めるものにほかならない。われわれはこのような事 態を憂慮するとともに、今後の展開を注意深く監視し、日本の軍国主義化につながる動きに歴史学の立場から警告を発しつづけて行くことを表明する。

2009年7月17日
歴史学研究会委員会