東京都教育委員会の扶桑社版『新しい歴史教科書』の採択に抗議し、その撤回とやり直しを強く求める要請書

東京都教育委員会委員長殿
東京都教育長殿

 8月26日、東京都教育委員会は、2005年4月に開校する都立白鴎高校付属中学校(台東区)で使用する社会科教科書として、扶桑社版『新しい歴史教科書』(以下「つくる会」教科書)の採択を決定した。私たち歴史学研究会は、以下の理由により、歴史研究者・教育者の立場からこれに抗議し、その撤回と採択のやり直しを強く求めるものである。
 第一に、歴史学研究会がたびたび指摘してきたことであるが、「つくる会」教科書の記述には、歴史家の目から見ておよそ信じがたいまちがいがあまりにも多く、教科書としての適性を疑わざるをえないということである。
 歴史学研究会は2001年に出版した『歴史家のよむ「つくる会」教科書』の中で、「つくる会」教科書の記述を詳細に検討した結果、歴史観の違いといった理由では到底説明できない数々の重大なあやまりがあることを発見し、きわめてずさんな内容であるという結論に達した。このような考えは、歴史学研究会固有のものではない。全国の採択区で社会科教科書としての採択が拒絶され、今日でも私立中学校を含めてもその採択率がわずか0.097%に過ぎないという事実が、「つくる会」教科書が教科書として不適切であるという認識が全国的に共有されていることを物語っている。
 しかるに、「つくる会」は、自分たちが執筆した内容にあやまりがあることを反省し、内容の改善をはかるどころか、自分たちに向けられた批判を「外部からの組織的かつ暴力的な圧力」と決め付け、自分たちの執筆内容の改善に対する努力をまったく払おうとはしていない。
第二に、「つくる会」教科書は、日本の伝統・文化を賛美し、日本の歴史を肯定的にとらえようとするあまり、日本だけでなく日本以外の国々の歴史をもわいきょくしており、多くの国々との友好関係を損なう危険があることである。
 既に、東京都の友好都市であるソウル特別市の市長および教育委員会からは「つくる会」教科書採択を憂慮する書簡が石原慎太郎東京都知事に対して寄せられている。このような周辺諸国の憂慮の声に耳を傾けず、いたずらに「つくる会」教科書に固執することは、東京都とソウル特別市の友好関係だけでなく、日本と韓国、さらには他の周辺諸国との友好関係を損なうだけでなんら益をもたらすものではない。特に、近年、日本では韓国に対する関心が高まり、日本と韓国両国の国民の交流がこれまでになく活発化しているなか、韓国国民自身が日韓友好に水をさすものだと指摘している教科書を使用することが、「豊かな人間性を持ち、国際社会で活躍できる開拓精神に富む人間を育成する」という都立白鴎高校付属中学校の教育理念に合致するとは到底思われない。
 第三に、今回の決定が、実際に教科書を使用して授業をおこなう教師の顔ぶれが確定する前におこなわれたことである。教科書の採択にあたって最も重視されるべきは、実際に教科書を使用して授業をおこなう教師たちの声である。にもかかわらず、東京都教育委員会はトップダウン式に授業で使用する教科書を決定し、これから都立白鴎高校付属中学校に赴任するであろう教師たちにそれを強制しようとしている。教師の授業計画は、どの教科書を使用するかによって大きく左右されるというのに、教師から自らの授業で使用する教科書を選ぶ権利を奪っておいて、「高い志をもって意欲的に学び、自らの能力や適性を生か」す生徒を育成することが出来るだろうか。生徒の自主性を尊重するというならば、まず教師の自主性が尊重されなければならない。教師に全面的な服従を強いる学校が、生徒の自主性や個性の尊重を理念に掲げても、生徒や保護者には何の説得力も持たないであろう。
 以上3点により私たち歴史学研究会は、東京都教育委員会の「つくる会」教科書の採択決定に抗議し、ただちにこれを撤回し、改めて採択をやり直すことを要請する。


2004年9月17日
歴史学研究会委員会