市町村合併に際して歴史的価値を有する公文書の適切な保存を求める決議

  2000年(平成12)12月1日、政府は、全国に約3200ある市町村を約1000に合併する方針を示した「行政改革大綱」を閣議決定した。これを受けて、各地で合併にむけた協議会や研究会が設置され、その数は2004年5月時点で全国市町村の60%を越えた。しかし、合併特例法が2005年(平成17)3月末を期限とするため、その作業は性急なものとなり、合併の意義や住民の合意形成などをめぐって各地で混乱が続いている。
 そして、合併協議の場では、新市の名称や事務引継などに議論が集中する一方、市町村が保管してきた公文書の引継・保存に対する関心が十分とは言えない。そのため、住民の監視の目が届かないまま、各地で歴史的価値を有する公文書が散逸・廃棄の危機に直面しており、また実際に進行しつつある。わたしたち歴史学研究会は、このような公文書保存の現状に強い危惧を抱いている。
 日本近現代史の上で、地方制度改革に伴う公文書の危機は、過去に3度起きた。第1は、1889年(明治22)の市制・町村制施行で、このとき村の戸長役場文書の一部は市町村役場へ引き継がれ、残りは旧戸長宅で保管されて現在に伝えられた。第2は、1921年(大正10)の郡制廃止で、このとき郡役所の記録として郡誌が編纂されたが、行政の実態を示す郡役所文書はほとんど廃棄された。第3は、1953年(昭和28)に始まる「昭和の大合併」で、このとき合併前の市町村役場文書が大量に廃棄されてしまったことは、今も記憶に新しい。
 この結果、近現代日本の歴史的公文書は、時期を下るにしたがって残存率も下がり、特に戦中・戦後期の文書は、敗戦直後における公文書の組織的な隠滅もあって稀少である。このことは、現在、地域の歴史的展開を解明する上で著しい障害となっている。
 言うまでもなく、市町村の公文書とは、過去・現在・未来にわたる地域住民の共有財産であると同時に、地域の歴史的展開を明らかにする貴重な史料である。いま、公文書の散逸・廃棄の危機をこのまま放置すれば、高度経済成長期を含む20世紀日本社会の歴史像を解明する手段は、永遠に失われてしまうだろう。かつての「昭和の大合併」の轍は、二度と踏んではならない。
 わたしたち歴史学研究会は、市町村合併が進む全国の市町村に対して、歴史的価値を有する公文書の適切な保存を強く求めるものである。
 そのために、合併協議においては公文書の引継を議題にするよう求める。また、短期間の引継事務では、公文書の歴史的価値を適切に評価することが困難である。まずは、現存する公文書を包括的に保存する方針を明示して、安易に散逸・廃棄させない措置を講ずるべきである。
 なお、新市成立後は、それらの適切な選別評価を専門的見地から進めるとともに、歴史的公文書の恒久的な保存利用体制を整備するため、公文書館法(昭和62年法律第115号)に基づく文書館施設の設置及び専門職員の配置が行われるよう希望する。

  2004年5月29日
                           歴史学研究会総会