京奈和自動車道のルート決定に際して 平城宮・京跡の保存を求める特別決議

国土交通省は本年夏をめどに京奈和自動車道の大和北道路区間(京都府木津町~奈良県大和郡山市)のルート決定を目指しており、現在、大和北道路有識者委員会によるルート決定のための「PI(パブリック・インボルブメント)プロセス」として、地元住民対象のアンケート、関係機関からの意見聴取(ヒアリング)などが行われている。われわれは、本道路計画が、日本における今後の文化財保存行政のあり方を左右するものであることから重大な関心をもっている。

 本道路計画については当初、国指定特別史跡でユネスコの世界文化遺産でもある平城宮跡の地下を通過する計画案が進められたため、国内外の歴史研究者や文化財保存に関心をもつ人々から、計画に対する反対や懸念の意見表明がなされた。本会も、「京奈和自動車道の平城宮・京跡地下通過計画の撤回を求める声明」(2000年7月28日付)を出し、二回にわたって開かれた「高速道路計画で危機を迎えた世界遺産平城宮(京)跡を考えるシンポジウム」(2001年11月11日、2002年11月17日)に実行委員会構成団体として参加した。

 こうした動きを受けて、大和北道路有識者委員会は本年1月17日、平城宮跡直下トンネル建設案を除外した4ルート7案を公表し、前述の「PIプロセス」を経た上で推奨ルート案を決定するとしている。われわれは、宮跡直下通過案が撤回されたとはいえ、ルートの選定結果によっては、平城宮・京跡の保存に重大な影響が生じる懸念があると考える。

 まず、「中央エリア1」(国道24号線周辺)2案は、平城宮跡の直近を通過するものであり、宮跡直下案と同様に問題であると考える。平城宮跡は文化庁も述べているように「脆弱な土と木で構成され」た遺跡としての価値が認められて世界遺産に指定された。また、周辺地域は長屋王家木簡・二条大路木簡の出土等で知られる文化財の宝庫である。

 本年3月、文化審議会は平城宮跡出土木簡を初めて重要文化財に指定するよう文部科学大臣に答申した。今回一括指定の対象となった木簡群は、奈良時代の大膳職(宮内省管轄下で宮廷の饗膳(食事)を担当した役所)の所在地の比定、奈良時代政治史(孝謙太上天皇と淳仁天皇の対立)の解明などに貴重な情報をもたらしたものとして有名である。そもそも平城宮・京跡出土木簡は、政権中枢や奈良県地域の古代史にとどまらず、日本列島内諸地域の古代史(地名、地方行政、産業、流通、氏族分布等)の解明、中国・朝鮮半島出土木簡との比較など東アジアの古代史解明の上でも重要な資料である。平城宮・京跡内には未発見の重要文化財・国宝級の資料が無限に眠っているといっても過言ではない。こうした埋蔵文化財の情報は一旦失われると二度と甦らない。道路建設による地下水位および地中の遺構・遺物への影響が否定できない以上、当該地域への道路建設を認めることはできない。

 また、「中央エリア2」(中心市街地地下通過案)、「西側エリア」2案、「東側エリア」(若草山原始林迂回山岳トンネル案)は、平城宮跡自体からは離れるものの、世界遺産「古都奈良の文化財」指定地域(6寺社や若草山原始林)の緩衝地帯(バッファーゾーン)や歴史的環境調整区域(ハーモニーゾーン)を通過するものであり、平城京跡域内の文化財保存や景観保存の上で重大な問題があると考える。大気汚染など文化財保存環境への影響も懸念される。

 このように、現段階で大和北道路有識者委員会が提示している4ルート6案はいずれも平城宮・京跡の保存に重大な影響を与えうるものであり、これらを認めることはできない。他方、大和北道路有識者委員会が7番目の案として出している、道路そのものは建設せずに既存道路を改良するとする対策案は、国土交通省の諮問組織自身が提起したという点では評価できると考える。大和北道路のルート・構造案決定に際しては、人類共有の文化財である平城宮・京跡の保存を最優先に考慮した決定を強く求めるものである。

2003年5月24日

歴史学研究会総会