オオヤマト古墳群を貫くバイパス道路計画の撤回と古墳群の一体的な保存を求める声明

 奈良県天理市から桜井市にかけての南北4km・東西1.5kmの範囲の地域には数多くの古墳(約50基)が南北に分布しており、当該地域の古代史の解明のみならず、日本列島における古代国家の形成過程を研究する上できわめて重要な古墳群として、オオヤマト古墳群と総称されています。ところが現在、奈良県によって古墳群の一部を貫くバイパス道路(県道天理環状線)の建設計画が進められており、ノムギ古墳・ヒエ塚古墳・マバカ古墳(いずれも天理市)が破壊の危機に直面しています。

 道路計画は、ヒエ塚古墳とノムギ古墳の間を南北に貫き、マバカ古墳の前方部西をかすめるもので、墳丘そのものを破壊するものではないとされていますが、これには古墳についての認識上の重大な誤りがあるといわざるをえません。古墳とは、墳丘のみならず、周溝、周堤、土橋、葺石、墳丘内外に置かれた埴輪・供献土器等の遺構・遺物が一体となって墓域を構成していたものです。地表で観察される現状の墳丘はその一部にすぎず、墳丘裾や周溝等が埋没していることが少なくありません。実際、奈良県が昨年(2002年)県道予定地内で行った発掘調査では、マバカ古墳で周溝状の遺構が検出され、出土土器の年代から同古墳が全国最古級の前方後円墳である可能性が判明しました。またノムギ古墳は、以前は前方後円墳とされていましたが、近年の調査で、前方後方墳であることが判明しています。この他の事例も含めて道路建設予定地内やその周辺では、古墳の墳形や年代観、古墳群の構成などの基本的理解に見直しを迫る重要な発見が相次いでおり、周辺地域を含めた総合的な学術調査と保存のための施策が必要と考えます。道路建設による「記録保存」という名の破壊、周辺環境や景観の破壊は避けるべきです。現行の道路計画案は古墳群に対する破壊行為といわざるをえません。

 そもそも、ノムギ古墳・ヒエ塚古墳・マバカ古墳がいかなる史跡指定も受けていないという事実に私たちは重大な疑問を感じます。オオヤマト古墳群の中で国の史跡に指定されているのは櫛山古墳・黒塚古墳などごく一部です。柳本行灯山古墳(宮内庁は崇神天皇陵に比定)、有名な箸墓古墳など4基の巨大前方後円墳は「陵墓」に指定されていますが、国や地方自治体の史跡に指定されているわけではありません。現状の保存措置は、一部の古墳を史跡指定するのみで、古墳群全体の面的な保存、周囲の歴史的環境(いわゆる「山辺の道」)と一体となった歴史的景観の保存といった観点からは不十分といわざるをえません。

 私たち歴史学研究会は、「陵墓」問題(宮内庁によって「陵墓」・「陵墓参考地」に指定されている古墳や遺跡の保存・公開要求運動)に関わってきた歴史学や考古学の学会、奈良県内外で文化財保存に取り組んでいる団体などと共に「オオヤマト古墳群シンポジウム実行委員会」に参加し、シンポジウム「オオヤマトの古墳群と地域を考える」(2002年5月18日)の開催などに協力してきました。オオヤマト古墳群に古墳時代前期の前方後円墳が多数含まれること、倭王権すなわち古代日本の国家形成過程の解明に欠かせないものであることは学界共通の理解です。考古学的な年代観、被葬者・造営主体の文献資料との対応関係等の研究を深める上でも、古墳群全体を一体のものとして保存するための施策が必要であると考えます。古墳群地域の世界遺産登録をめざすべきだとする地元の市民・研究者の声にも耳を傾けるべきだと考えます。

 私たちは、来年度にも予定されている道路の着工に反対し、計画の撤回とオオヤマト古墳群全体の一体的な保存を強く求めます。

2003年5月16日
歴史学研究会委員会