「3.11」 後の歴史学研究会の責務

 2011年3月11日に発生した東日本大震災と大津波、またそれに引き続く東京電力福島第一原子力発電所における事故は、かつてなく深刻な事態を引き起 こしている。無数の生命が失われ、生活が破壊された。歴史学研究会は、犠牲者の方々に哀悼の意を表し、被災された方々にお見舞いを申し上げる。同時に、歴 史学の担い手としての社会的責任の自覚に立ち、以下の見解を表明する。

一、地震・火山噴火等の災害をめぐっては、自然科学だけでなく歴史学の分野においても、近年、研究が進んでいる。しかし、今回の巨大地震・津波において は、貞観地震をはじめとする過去の地震・津波の教訓が十分には生かされず、被害を大きくする一因ともなった。また、スマトラ沖・中国四川省・ハイチなど世 界各地で起きた地震・津波が甚大な被害をもたらしたことも記憶に新しい。歴史学研究会は、災害をめぐる歴史研究の成果の社会への還元に十分寄与して来られ たかを自ら問い直し、世界史的視野に立ちつつ、自然と人間の関係をめぐる歴史を多様な視点から明らかにすることに努め、その成果を会誌等を通じて広く社会 に発信していきたい。

二、歴史学関係者の社会的責務のひとつに、歴史資料・文化財・公文書館・博物館・図書館等(以下、歴史資料等)の救援がある。災害と復興をめぐる記録資 料の収集・保存も重要な課題である。阪神・淡路大震災((1995年)を契機とする歴史資料ネットワークの立ち上げから過去16年のあいだに、歴史資料等 の救 援や災害・復興記録の収集・保存の取り組みは日本各地に大きく広がり、その内容を深めてきた。しかし、今回の災害の規模と性格は、これまでにない取り組み を要求している。歴史学研究会は、災害からの市民生活の再建と復興という課題と不可分の取り組みとして歴史資料等の救援や災害・復興記録の収集・保存を位 置づけ、地域の歴史性を大切にしつつ関係諸団体と連携して活動を進めるとともに、日本史・外国史を問わず、広く歴史学関係者に対して協力を呼びかけたい。

三、今回の原発事故をめぐっては、電力会社・歴代政府が「安全神話」を広めてきたことに対し、大きな批判が巻き起こっている。これに関しては、「科学技 術」過信の危険性や経済成長優先主義の問題、核の「平和利用」政策の導入の経緯など、被爆国の歴史学界として取り組むべき課題がある。歴史学研究会は、こ れまでの取り組みが不十分だったことを反省すると共に、今後、これらの課題の歴史学の立場からの検証に努めたい。

四、今回の災害、とりわけ原発事故に関しては、事故発生と同時に、政府・東電・専門家・マスコミ等による情報公開のあり方をめぐり、懸念すべき状況が生 じている。事故の実態に関する情報提供が極端に遅れたため、人々が事態の全容を把握できない状況を招いた。また、「情報の一元化」を理由として、情報発信 を規制・自主規制する動きも広がっている。情報発信のあり方については様々な立場がありうるが、災害をきっかけとして社会の統制強化が進行したことは、関 東大震災の苦い教訓であり、こうした事態が繰り返されてはならない。歴史学研究会は、関係機関が情報を迅速かつ体系的に公表し、すべての記録を保存・公開 することを通じ、人々の英知が民主的・科学的に結集され、問題解決の道が見出されることを、強く要望する。

 歴史学研究会は、これまでも現代が提起する課題と向き合いつつ過去を問うことをめざしてきた。こうした伝統を受け継ぎ、東日本大震災と原発事故が提起す る諸問題を歴史学の課題として受けとめ、今回の破局的状況を人のいのちとくらしが大切にされる社会へと大きく舵を切る転換点とするため、歴史学関係者の学 会という立場から力を尽くしていきたい。

2011年5月21日
歴史学研究会総会