日本学術会議第25期推薦会員任命拒否に関する人文・社会科学系学協会共同声明

 私たち人文・社会科学分野の310学協会は、日本学術会議が発出した2020(令和2)年10月2日付「第25期新規会員任命に関する要望書」に賛同し、下記の2点が速やかに実現されることを強く求めます。
 1.日本学術会議が推薦した会員候補者が任命されない理由を説明すること。
 2.日本学術会議が推薦した会員候補者のうち、任命されていない方を任命すること。

2020(令和2)年 11 月 6日

参加学協会(140学協会)
異文化間教育学会*/大阪歴史学会/科学技術社会論学会*/科学基礎論学会/科学社会学会*/カルチュラル・スタディーズ学会*/環境社会学会*/関西社会学会*/関東社会学会*/基礎経済科学研究所/北ヨーロッパ学会/教育史学会*/教育思想史学会/教育目標・評価学会*/経済理論学会*/言語系学会連合/言語文化教育研究学会/工業経営研究学会*/考古学研究会*/高大連携歴史教育研究会*/国際ジェンダー学会*/古事記学会/古代文学会*/社会言語科学会*/社会事業史学会**/社会政策学会/社会政策関連学会協議会*/首都圏形成史研究会/上代文学会*/上智大学史学会*/昭和文学会*/女性史総合研究会/心理科学研究会*/説話文学会**/全国大学国語国文学会*/専修大学歴史学会/総合女性史学会/大学評価学会*/千葉歴史学会/地方史研究協議会/中央史学会/中古文学会*/中世哲学会*/中世文学会*/東京歴史科学研究会*/同時代史学会*/東南アジア学会*/東北社会学会/東北哲学会*/名古屋歴史科学研究会/奈良歴史研究会/日仏社会学会/日本EU学会*/日本英語学会/日本映像学会*/日本応用心理学会/日本音韻論学会*/日本音楽教育学会**/日本科学史学会*/日本学校音楽教育実践学会/日本カリキュラム学会*/日本環境教育学会**/日本韓国語教育学会**/日本看護福祉学会*/日本教育学会/日本教育工学会*/日本教育社会学会*/日本教育心理学会*/日本教育法学会/日本教育メディア学会/日本教師学学会/日本教師教育学会*/日本教授学習心理学会**/日本キリスト教社会福祉学会*/日本近代文学会*/日本グループ・ダイナミックス学会/日本言語学会/日本現象学会*/日本高等教育学会**/日本語学会*/日本語教育学会**/日本国際理解教育学会*/日本古文書学会*/日本サルトル学会*/日本史研究会/日本社会学史学会*/日本社会学会*/日本社会学理論学会*/日本社会教育学会**/日本社会福祉学会*/日本社会文学会*/日本宗教研究諸学会連合**/日本18世紀学会*/日本職業教育学会*/日本ショーペンハウアー協会*/日本女性科学研究者の環境改善に関する懇談会(JAICOWS)*/日本秦漢史学会/日本心理学会/日本数学教育学会 /日本スポーツ社会学会*/日本青年心理学会*/日本生理心理学会*/日本ソーシャルワーク学会**/日本村落研究学会*/日本地域福祉学会**/日本中東学会*/日本哲学系諸学会連合/日本都市社会学会*/日本ナイル・エチオピア学会/日本乳幼児教育学会/日本発達心理学会*/日本比較経営学会**/日本比較文学会*/日本美術教育学会/日本フェミニスト経済学会*/日本福祉教育・ボランティア学習学会**/日本文学協会*/日本文化人類学会*/日本マス・コミュニケーション学会*/日本野外教育学会/日本ラテンアメリカ学会*/日本リメディアル教育学会/日本臨床心理学会*/日本歴史学協会/バイロン協会/比較経済体制学会**/表象文化論学会*/仏教文学会*/法と心理学会*/北海道教育学会**/萬葉学会*/民主主義科学者協会法律部会*/物語研究会*/唯物論研究協会*/幼児教育史学会*/ラテン・アメリカ政経学会*/歴史科学協議会/歴史学研究会/歴史教育者協議会/労務理論学会*

賛同学協会(170学協会)
秋田近代史研究会/秋田大学史学会/アジア経営学会*/アジア鋳造技術史学会日本支部*/イタリア学会/岩手史学会/印度学宗教学会**/英語語法文法学会/オーストラリア学会*/鷹陵史学会*/大阪歴史科学協議会*/関東教育学会**/教育哲学会**/共生社会システム学会*/京都大学基督教学会/京都民科歴史部会/キリスト教史学会*/経営関連学会協議会*/経営史学会**/経済学史学会**/藝能史研究会*/ゲーテ自然科学の集い*/現代史研究会*/交通史学会/国際芥川龍之介学会**/国際幼児教育学会/子どもと自然学会*/駒沢宗教学研究会*/西行学会*/史学研究会/実存思想協会*/社会経済史学会*/社会思想史学会*/宗教哲学会*/「宗教と社会」学会*/宗教倫理学会*/ジェンダー史学会*/ジェンダー法学会*/障害学会*/女性労働問題研究会*/新プラトン主義協会*/人文地理学会**/数理社会学会*/スピノザ協会*/駿台史学会*/政治経済学・経済史学会*/政治思想学会*/西洋史研究会/戦国史研究会/全国英語教育学会*/全国社会科教育学会/全国数学教育学会/体育史学会*/大学教育学会/大学史研究会*/地域社会学会*/地域女性史研究会*/中部教育学会**/中部哲学会*/朝鮮語教育学会**/朝鮮史研究会*筑波哲学・思想学会*/哲学会*/ドイツ現代史研究会*/東欧史研究会**/東海社会学会*/東京学芸大学史学会/東北史学会/東洋史研究会/内陸アジア史学会/西田哲学会*/西日本社会学会*/日英教育学会/日仏教育学会*/日仏哲学会*/日仏歴史学会/日本アメリカ文学会**/日本アフリカ学会*/日本イギリス哲学会*/日本移民学会*/日本印度学仏教学会*/日本英文学会*/日本NPO学会*/日本オセアニア学会**/日本音声学会*/日本解放社会学会*/日本家族社会学会/日本学校教育学会*/日本学校保健学会**/日本家庭科教育学会*/日本カナダ学会**/日本歌謡学会*/日本環境会議*/日本旧約学会*/日本教育行政学会**/日本教育実践学会*/日本教育政策学会**/日本教育方法学会**/日本基督教学会*/日本キリスト教教育学会*/日本近代仏教史研究会*/日本経営学会**/日本ゲニザ学会/日本考古学協会*/日本行動分析学会*/日本山岳修験学会*/日本シェリング協会*/日本ジェンダー学会*/日本史攷究会*/日本質的心理学会*/日本社会科教育学会*/日本社会心理学会/日本社会病理学会*/日本社会分析学会*/日本宗教学会*/日本儒教学会*/日本職業リハビリテーション学会/日本女性学会*/日本新約学会*/日本生活学会*/日本生活指導学会*/日本体育科教育学会/日本西蔵(チベット)学会*/日本中国学会*/日本地理学会*/日本哲学会*/日本道教学会**/日本動物心理学会*/日本特殊教育学会*/日本独文学会*/日本特別活動学会/日本箱庭療法学会*/日本犯罪社会学会**/日本風俗史学会/日本福祉文化学会/日本仏教綜合研究学会*/日本フランス語学会*/日本文学風土学会**/日本平和学会*/日本ヘーゲル学会*/日本保育学会*/日本保育ソーシャルワーク学会/日本保健医療社会学会*/日本保健医療社会福祉学会/日本ポピュラー音楽学会*/日本マイクロカウンセリング学会*/日本流通学会/日本労働社会学会*/ハイデガー・フォーラム/パーリ学仏教文化学会*/白山史学会*/比較家族史学会*/比較思想学会*/美学会/東アジア近代史学会*/貧困研究会*/福祉社会学会*/仏教思想学会*/文化史学会*/法政大学史学会*/北東アジア学会*/北海道社会学会*/美夫君志会*/洛北史学会/林業経済学会*/歴史人類学会/ロシア史研究会/ロシア・東欧学会**/早稲田大学史学会*/早稲田大学東洋史懇話会*

(五十音順。2020年11月27日)
(注)無印 学会として
* 学会理事会等として
**会長として

菅首相による日本学術会議会員の任命拒否に強く抗議する(声明)

 日本学術会議(以下、学術会議とする)第25期の活動が開始されるにあたり、学術会議が推薦した会員候補105名のうち、日本近代史を専攻する歴史学者1名を含む6名の候補の任命を、菅首相は拒否した。
 そもそも日本学術会議法(以下、法とする)第七条2に「会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。」とあり、第十七条には「日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。」とある。したがって、学術会議の会員の任命にあたっては、何よりも学術会議の推薦が尊重され、内閣総理大臣の任命は形式的なものであることは明らかである。この点、1983年5月12日の参議院文教委員会における中曽根康弘首相(当時)の「これは、学会やらあるいは学術集団から推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎません。したがって、実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので、政府の行為は形式的行為であるとお考えくだされば、学問の自由独立というものはあくまで保障されるものと考えております。」との発言からも裏づけられる。
 菅首相による今回の任命拒否は、こうした法の規定や従来の政府見解を踏みにじる、まさしく法律違反であり、とうてい容認することはできない。
 また、菅首相が、今回の任命拒否にあたって、歴史学を含む人文・社会科学の6名の研究者をその対象にしたことも看過できない。
 まず、その6名の研究者をなぜ任命拒否したかについての個別の事情を明らかにしないことが問題である。おおかたの観測によれば、6名の研究者が、安倍政権時代、安全保障関連法制、特定秘密保護法、いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法等に反対の意思を表明したことが、任命拒否の理由ではないかとされているが、かりにそうした政策批判を理由に任命拒否を行ったのであるならば、これは、"御用機関に堕す"よう政府が学術会議に強要することにほかならない。同時に「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図」り「科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させる」職務を「独立」して学術会議が行うとする法第三条の規定に違反する行為であると言わざるを得ず、ひいては日本国憲法第二十三条で保障される「学問の自由」を侵すものに他ならない。
 今回の事態に私たちは、歴史学を専攻する研究者として、戦前において、久米邦武事件、津田左右吉事件などの諸事件において、歴史学の研究成果が政治的に否定されたこと、あるいは、国民統制を目的にして史実に反する歴史の教育が強制されたことを想起せざるを得ない。戦後民主主義下の1949年に学術会議が発足するにあたって、「われわれは、これまでわが国の科学者がとりきたった態度について強く反省し、今後は、科学が文化国家ないし平和国家の基礎であるという確信の下に、わが国の平和的復興と人類の福祉増進のために貢献せんと誓うものである。(中略)われわれは、日本国憲法の保障する思想と良心の自由、学問の自由及び言論の自由を確保するとともに、科学者の総意の下に、人類の平和のためあまねく世界の学界と連携して学術の進歩に寄与するよう万全の努力を傾注すべきことを期する」(「日本学術会議の発足にあたって科学者としての決意表明(声明)」1949年1月22日)と誓ったことにかんがみると、今回の事態はまさにこの学術会議設立の精神を否定するものである(「日本学術会議創立70周年記念展示日本学術会議の設立と組織の変遷」)。
 さらに、今回の任命拒否の対象が、政治・社会等の課題を発見し未来に向かって提言することを一つの使命とする人文・社会科学に携わる研究者であったことは、政権の一部にある、人文・社会科学を軽視しその存在意義を認めない傾向—例えば、2015年6月8日の下村博文文科相(当時)が国立大学法人に対して行った通知(「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」)にも通底する—を助長することにつながる。万一、こうした動きに「忖度して」人文・社会科学を学ぼうとする方々が少なくなれば、日本の学問・研究は萎縮していくことになるであろう。
 私たち歴史研究者は、学術会議の「答申」により文部省史料館(のちに国立史料館、現在の国文学研究資料館)が設立され、また学術会議の「公文書散逸防止にむけて」(勧告)が国立公文書館の設立につながったことを知っている。そして、現在に至るまで、学術会議が、毎年さまざま提言・報告を出すことにより、学術の基盤を整備するために尽力してきたことを知っている。歴史資料・文化財の保全や公文書管理は、現在まさに急務となっており、その充実に学術会議が果たすべき役割はきわめて大きく、政府や社会へのさらなる働きかけを期待するものである。
 以上、わが国の歴史学系学会の連合組織である日本歴史学協会は、「思想と良心の自由、学問の自由及び言論の自由」がないがしろにされ侵害されている現状を深く憂い、賛同する学会と共同で本声明を出すことにした。今回任命拒否された6名の研究者をただちに会員に任命するよう強く求めるものである。

2020年10月 18日 
日本歴史学協会

秋田近代史研究会/岩手史学会/大阪大学西洋史学会/大阪歴史学会/関東近世史研究会/九州西洋史学会/京都民科歴史部会/高大連携歴史教育研究会/交通史学会/史学研究会/首都圏形成史研究会/上智大学史学会/駿台史学会/西洋史研究会/戦国史研究会/総合女性史学会/千葉歴史学会/地方史研究協議会/中央史学会/朝鮮史研究会/東京学芸大学史学会/東京歴史科学研究会/東北史学会/東洋史研究会/奈良歴史研究会/日本史研究会/日本史攷究会/日本風俗史学会/白山史学会/東アジア近代史学会/立教大学史学会/歴史科学協議会/歴史学研究会/歴史教育者協議会/歴史人類学会/早稲田大学東洋史懇話会

政府の日本学術会議会員任命拒否に断固抗議する緊急声明

 10月1日、日本学術会議第25期の発足にあたり、同会議が推薦した新会員候補105名のうち6名の任命を、政府が拒否したことが明らかとなった。現行制度下で、初の事態である。
 今回の政府の対応は、同会議の職務の独立を定める日本学術会議法の趣旨に反するのみならず、学問の自由を著しく侵害し、科学者の自律した研究活動を委縮させ、ひいては言論の自由や思想・信条の自由といった民主主義社会の根幹をも否定しかねないものである。学問の自由と独立が否定され、国民統制と戦争協力に動員された過去の歴史を想起する時、今回の措置が将来に大きな禍根を残すことが強く懸念される。
 以上から、政府による任命拒否に断固抗議する。また、時の政権の恣意によって任命拒否が行われるのではないかとの社会の疑念を払拭するためにも、政府に対して、任命が見送られている新会員候補のすみやかな任命と、任命を見送った経緯についての明確な説明を要求する。
 そして、この問題の解決に向け、立場や専門の違いを越えた、広汎な連帯を呼びかけるものである。

2020年10月3日 
歴史学研究会委員会

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歴史学関係学会ハラスメント防止宣言

 一般に、ハラスメントは、性別、社会的身分、人種、国籍、信条、年齢、職業、学歴・職歴、身体的特徴など個人の人格にかかわる言動によって、あるいは力関係や優越的地位を利用して個人に不利益・不快感を与え、その尊厳を損なうすべての行為を指します。セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント、マタニティ・ハラスメント、モラル・ハラスメント、アルコール・ハラスメントなど様々なハラスメントはようやく社会的に認知されるようになっています。また、近年ではソーシャルメディアの発達とともに、インターネット上での誹謗中傷も大きな社会問題になっています。ハラスメントを防止することは、個人の人格と人権を尊重することであり、その重要性は学問の世界でも例外ではありません。
 すでに数多くの大学・研究機関では、ハラスメントを防止するためのガイドラインが作成され、改善のための取り組みと、また残念ながらなお数多く発生する様々な事件への対処が行われています。しかし、学問・研究活動は大学・研究機関だけではなく、それらの組織を超えて連携・協同する学会によっても成り立っています。歴史学関係の学会も、大会・例会・シンポジウム・学会誌編集発行などの様々な組織運営活動を通じて、歴史研究者がその研究成果を発表し、互いに議論する場を提供しています。その活動は、大学・研究機関に所属しない歴史研究者によっても、あるいは教育・出版関係など広く社会一般に及ぶ様々な立場の関係者によっても担われています。ハラスメントは被害者の自由な意見表明や研究活動・組織運営活動を萎縮させます。それは民主的で自由・平等を基本とする学会活動の健全な発展を阻害するものです。
 歴史学関係学会は学問の発展のために、ハラスメント防止の取り組みに積極的に協力することが求められるでしょう。本ハラスメント防止宣言に賛同する歴史学関係学会は、歴史学の発展と歴史学関係学会に携わる関係者の人格と人権の尊重のために、各学会会員にハラスメントの防止をよびかけ、啓発活動に取り組み、ハラスメントのない自由闊達で平等な歴史研究活動の実現に努めることをここに宣言します。

2020年7月15日

日本歴史学協会/岩手史学会/京都民科歴史部会/上智大学史学会/駿台史学会/総合女性史学会/地方史研究協議会/東欧史研究会/東京歴史科学研究会/同時代史学会/奈良歴史研究会/日本史研究会/パブリックヒストリー研究会/東アジア近代史学会/法政大学史学会/歴史学研究会(2020年7月15日現在)  

国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲拡大による知識情報基盤の充実を求めます(公開要望書)

文部科学大臣      萩生田 光一 殿
文化庁長官       宮田 亮平 殿
国立国会図書館長    吉永 元信 殿
国立研究開発法人科学技術振興機構理事長 濱口 道成 殿
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所所長 喜連川 優 殿

 現在、新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、国立国会図書館をはじめ、全国の大学図書館や地方自治体の図書館など、教育・研究に不可欠な日本各地の図書館が休館に追い込まれました。今後、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束に向かうとしても、なお長期にわたって図書館が本来の機能を果たすことが難しくなることが予想されます。
 図書館の休館延長・一部機能の停止、あるいは利用者の来館が困難な状況が続けば、本来図書館がもつ教育・研究に果たすべき公共的役割が著しく制約されることになります。この図書館機能に対する制約が続くと、日本の教育・研究に多大な影響を与えることになります。とくに、卒業研究に取り組む学部学生、迅速な研究成果が求められている大学院生・ポスドクなどの若手研究者にとっては由々しき事態であり、中長期的にみたときにも、個々人のそのキャリア形成のみならず、学知を支える存在の欠落を招き、将来の社会全体に与えるダメージは計り知れません。
 したがって、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぎながら、教育・研究に必要な図書館所蔵資料へのアクセスを可能とする対応が求められています。そのため、以下のように国立国会図書館デジタルコレクションの公開範囲の拡大を要望します。

1.国立国会図書館デジタルコレクションのうち、図書館送信対象資料と国立国会図書館内限定公開資料のアクセス制限を可能な限り撤廃するよう、法改正を含めた施策を早急に検討すること。なお、あわせて公共貸与権を導入するなどにより、出版社と著者の権利を適切に保障すること。
2.国立国会図書館デジタルコレクションのうち、著者の没年が不明、ないしは著作権上の権利者が不明のいわゆる「孤児著作物」について、速やかにインターネット公開をすすめること。
3.各図書館の利用者が、電子メール等を利用して図書館資料の複製物の提供を全面的にうけられるよう、権利者団体及び図書館関係者間の協議に留意しつつも、積極的かつ早急に議論を進めること。

 これらは、新型コロナウイルス感染症拡大に対する緊急措置としての要望であるものの、将来にわたって日本の知識情報基盤を拡充するために、必要不可欠な施策と考えます。
 もちろん制度変更を伴わずとも、学会・協会、出版社、さらには研究者個々人といった著作権者側でできることは多数あります。たとえば、公益社団法人日本図書館協会は「新型コロナウイルス感染症に係る図書館活動についての協力依頼」(2020年4月24日)を発し、著作権をもつ関係団体に公衆送信への協力を要請しています。
 このような取り組みに協力すること、さらに緊急時でなくても常に研究成果を積極的に発信するよう取り組むことは、学術研究に携わるすべての関係者に求められています。歴史学関係の学会・協会も、上記の要望に加えて研究成果のオープンアクセス化をすすめることで、学生・大学院生、さらには不安定な立場にある研究者を含むすべての研究者が研究活動を継続できるような環境整備に協力していきます。
 しかしながら、一方で、学会・協会が独自に学会誌のデジタル化をすすめるのは費用がかさみ、対応できないという現実があります。つとにJ-STAGEにより、有識者会議で選定した705誌のデジタルアーカイブズ化が行なわれたのですが、ここから漏れたり、あるいは諸般の事情でデジタル化に応じることができなかったりした学会・協会も多くあります。
 この機会に再度、範囲を拡大して過去の国内学術雑誌のデジタルアーカイブズ化を推進していただきたくお願い申し上げます。J-STAGE、国立国会図書館、CiNiiとの連携サービスにより、国内学術雑誌のほとんどすべてを利用者が電子媒体により閲覧できる体制をつくっていただきたいと深く念願するものです。

2020年5月23日

日本歴史学協会/秋田近代史研究会/岩手史学会/九州西洋史学会/京都民科歴史部会/交通史学会/国史学会/駿台史学会/総合女性史学会/地方史研究協議会/朝鮮史研究会/東海大学史学会/東京歴史科学研究会/東北史学会/名古屋歴史科学研究会/奈良歴史研究会/日本史研究会/日本風俗史学会/白山史学会/立教大学史学会/歴史科学協議会/歴史学研究会/歴史学会/歴史教育者協議会(賛同学会、2020年6月15日更新)